Réalisation ॐ

永遠の相のもとに 〜 Sub specie aeternitatis 〜

映画「僕が飛び跳ねる理由」

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 東田直樹さんの存在を知ったのは、ディビッド・ミッチェル氏がきっかけでした。映画「クラウド・アトラスに感銘を受けて原作者を調べると、彼は日本に英語教師として滞在していた経験があり、日本語も堪能な方でした。(奥様は日本人らしい)彼が翻訳して海外に紹介した自閉症の僕が跳びはねる理由』を読み、NHKのドキュメンタリーを見て衝撃を受けました。 

www.nhk.or.jp

 自閉症者自身が文字盤を使って執筆したこの本によって、自閉症児を持つ親であったディビッド氏が抱えてきた疑問の数々が氷解します。彼が翻訳した英語版によって世界中で自閉症に関する理解が進み、多くの患者と共に家族も救われたことと思います。(後に東田さんはパソコンを使いこなすようになり「壊れたロボットを操縦する」ような自身の感覚と共に、幼少期からの想い出や内面を詳しく綴っています。) 


www.youtube.com

 海外で製作された今回の映画は、諸外国の自閉症患者と家族を取り巻く様子を紹介しながら、東田直樹さんの文章を解説としてナレーションで重ねています。ビジュアル先行で詳しい説明まではありませんが、関心を高める導入として優れた作品だと感じました。(たぶん興味を持った人は本を手に取るでしょうから)
 
 人間の内面はそれほど単純ではなく、認知機能と処理、意志表示のプロセスは非常に複雑です。そこには生得的な個体差もあって当然です。程度の違いこそあれ、誰しも自身の感情をコントロールできなかったり、溢れ出る想いを表現できないもどかしさに悩まされた時期があると思います。(ぼく自身が若い頃そうでした。認知科学仏教やヨガへの関心は、それと無関係ではないと思います。
 どこからが「障害」でどこまでが「個性」なのかを考えると、自閉症もとても身近な存在に感じられます。優れた技能や高い知性を持つ人ほど「コミュ障」と揶揄される傾向を併せ持っていますが、クリエイティブやイノベーションの価値を認識すると、それらはポジティブな要素として受け止めることができます。
 まだまだ自閉症に対する偏見は多いと思いますが、コミュニケーションの原点を見つめ直す観点からも、多くの方に見てほしい作品です。
The Reason I Jump: one boy's voice from the silence of autism

The Reason I Jump: one boy's voice from the silence of autism

  • 作者:Higashida, Naoki
  • 発売日: 2014/04/24
  • メディア: ペーパーバック
 
跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること

跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること

  • 作者:東田直樹
  • 発売日: 2014/09/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)