代表作である「北の国から」はあまりにも有名で、自分もそこから倉本ワールドに入ったのであまり偉そうなことは言えないのだが。
彼の描く世界の「何か」に惹かれて作品を読み漁った時期があるが、それが結果的に自分の価値観を掘り起こし、確立するまでの検証作業となった気がする。
「前略おふくろ様」「大都会」「北の国から」「君は海を見たか」「昨日、悲別で」(テレビドラマ脚本)、「ニングル」(舞台脚本)、「冬の華」「駅/STATION」「時計」「海へ/See you」(映画脚本)、「谷は眠っていた」「ゴールの情景」(エッセイ) など
過去に(短期間ではあるが)遠距離恋愛になったことがあって、死ぬほど手紙を書いた。文章を書くのは昔から得意だったが、手紙はあまり書いたことがなく、気持ちを文章にこめることの難しさをその時はじめて思い知った。
そんな自分が試行錯誤の果てに生み出した文体は、なるべく短く歯切れのいい文章と行間の持つ「間」が作り出すリズム、それによる演出だった。
ただの改行と1行空けるのとでは、読む側に伝わる「タメ」が違う。本当に伝えたいことの前後に「間」をつくる、それも1行空けるか2行空けるかでその言葉の持つ重さが変わってくる・・・そんなところに行き着いた。
その短かった遠距離恋愛期間に自分の文体は完成され、感情の抑揚も表現できるようになった(と、思う)。いかにいい手紙を書くかに自分の情熱が逸れてしまったこの恋は独りよがりに終わり、その傷痕はとても深かった...。
まあ、そんな経験をした。
倉本聰が富良野に移住し、塾を開いていることは何かで知っていた。
シナリオという形態のまま、書店に出ていた「北の国から」を買ったのは、「東京を捨てた」倉本聰を理解したかったからのような気がする。
自分も純と同じように、幼くして東京を離れた。
記憶の中の東京生活は地方のそれとは比較にならず、自分にとって東京は圧倒的な脅威だった。そのため、進路を選択する機会に自分は上京という道を無意識に避けてきた・・・そんな後ろめたい気持ちをどこかに抱いていた。
自分にとって「東京」という特別な場所。
そんな東京を「捨てた」という倉本聰の世界。
それがイコールシナリオという形で自分の中に飛び込んで来た。
ハシラとト書きと台詞。断片的なそれらの羅列による「シナリオ」には余計な説明(小説での「その時◯◯はこう思った」みたいな感情表現)は一切ないのであるが。
その淡々とした記号の組み合わせに凝縮された、登場人物同士の心と心のぶつかり合いに自分は圧倒された。
純
純 「(低く)父さん」
五郎 「何」
純 「僕・・・」
五郎 「何」
間
頭に浮かぶビジュアルの中で、自分が見つけたはずの「間」が芸術的な美しさでそこには存在していた。感服するしかなかった。
シナリオを学んでみたところ、「間」というト書きは、実はシナリオ固有のルールではなく、倉本氏の「専売特許」みたいなものであることを知る。
過去の作品やエッセイなど機会を見つけて読んでいくにつれ、共感できることが非常に多くなっていったような気がする。
それは、便利になりすぎることに対しての危機感であったり、その陰で今や致命的になりつつある自然環境に対してであったり。それらのことに無関心で居続けようとする人々の姿勢にであったり。
ただ指摘するだけでなく、都会を捨て厳寒の地に移住したこと、経済的なことを度外視し富良野塾で人材育成に取り組んでいること、自然保護活動を率先して行っていることなど、自らが考えたことを常に実践することに口先だけの評論家とは違う説得力を感じる。
元々ラジオドラマのライターだった氏が、テレビを書き始めたのはバイト感覚だったらしい。やがてそれが本業となり、創生期の「テレビドラマ」を支えて続けた『プロ意識』があるが故にNHKとの衝突を招き、北海道への移住を決意する直接的な原因となった。(衝突の原因は台本の読み合わせに立ち合うことをはじめとする倉本氏のドラマづくりの姿勢や熱意と、NHK現場サイドのサラリーマン的制作態度とのぶつかりであったとされている)
倉本ドラマの登場人物は、何か一本、筋を通そうとする人々である。
利口で得する生き方が、出来ない人々である。
例え不器用であっても、ゆずれない何かを持っていて、それを守るために却ってみっともない姿をさらしてしまう、そんな憎めない人々なのである。
人を見る暖かい目、それを倉本ドラマからは感じる。
「価値観」がたまたま近かったのか、影響を受けたからそうなったのかは分からないが、自分は倉本流の考え方/生き方が好きである。
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