Réalisation ॐ

永遠の相のもとに 〜 Sub specie aeternitatis 〜

日立の壁 〜 大企業病に立ち向った現場力

 日立製作所の現会長、東原敏昭さんの著作。

 川村さんの改革断行には本当に心が震えたし、中西さんのキャラクターは言動から伝わってきましたが、東原さんはプレゼンの全般的な内容には共感したものの、何をやろうとしているか分かりにくく、つかみどころのない印象でした。この本を読んで理解が深まったと共に、すっかりファンになりました。

 日立で社長になれる不文率(東大工学部卒、日立工場出身)は聞いたことがあり、その点からも慣例を破る人事であり、また傍流?とも思える品質保証部(システム開発系)ご出身であることが更に意外に感じられました。

 ドイツ駐在時にリーマンショックがあり「潰れるかもしれない」と危機感を抱いたらしく、大企業病に手厳しく言及しています。「動かない会社、言い訳文化、実は物語、3Qショック、ヒラメ人間」などユーモラスな例えながら、特に役員が社長の前に並んで行う赤字報告の謝罪を「パフォーマンス」とばっさり斬るあたり、秘められた「毒」成分wに好感を抱きました。

 縦割りの「カンパニー制」から横串の「ビジネスユニット制」への転換、これもじっくり説明を読むと、川村さんが剛腕で構築した体制を再びひっくり返したわけで、かなり大胆な決断です。それも、

大改革を断行するときは、説明よりも結果が大事なときがあるのではないでしょうか。結果を出す前にあれこれ説明しても、疑心暗鬼が募るだけです。それより、結果を出して、「みなさんの努力で業績もよくなった、ボーナスもたくさん出せました」と説明したほうがだんぜん理解しやすいと考えたのです。

 この肚の括り方は、尋常ではありません。実際に社内の動揺は大きかったようで、基本的には社員の気持ちを大切に考えるのに、ここだけ「確信犯的に」独断先行で断行したことに凄みを感じました。(思い起こすと、その成果もすぐには出ず、しばらくは疑念を持って報道されていた気がします。)

 理念として「自立分散型グローバル経営」を掲げながらも、バラバラにならないように「均質性、協調性」を持たせる・・・このようなジレンマはどこの組織であっても難しい問題ですが、そこで外から見ていてよくわからなかった「ルマーダ」の存在意義がようやく理解できました。

 まだまだ相乗効果のありそうな子会社を外に出した決断など、疑問に感じていたことについても、丁寧な説明を読んで「なるほど!」と自分の器の小ささ、先見性の足りなさを教えられました。。「小が大をのみ込む買収」「自ら黒船を呼ぶような買収」など、ドMな経営判断の数々に加えて、

執行役社長やCEOは絶対的な権限を持つ。暴走を防ぐにはしっかりした社外取締役が絶対に必要だ

と徹底したガバナンス改革を進めるなど、人間の弱さを知り尽くして先回りするような仕組み作りは、どこかの政治家やワンマン創業者とは「異なる次元」を感じます。この発想、価値観がどこから来るのか?考えると、経歴の説得力が増してきます。
 プロレスではなくガチのシステム思考、現場力を大切にする経営哲学に勇気をもらいました。ここにも「ザ・ラストマン」の存在を見た想いです。こういう方が社長に抜擢される選出の仕組み、そこに企業としての強みを感じました。