Réalisation ॐ

永遠の相のもとに 〜 Sub specie aeternitatis 〜

ディズニーの失敗から学べること

深夜のドキュメンタリー番組を見ていて、ちょっと意外というか、軽い衝撃がありました。

ピクサー関連本から多くを学んだ中で、ぼくの最も好きなエピソードが「ディズニーのアニメーションスタジオを建て直した話」です。概要を紹介すると、

  • ディズニーによるピクサー買収の話が持ち上がった中で、ディズニー側からピクサー経営陣に(凋落していた)アニメーションスタジオの再建を依頼された。(買収する側が、買収される側にマネジメントを託す「組織の力学」としては逆転の発想)
  • ピクサー経営陣が視察に訪問すると、クリエイティブ関連の社員の机周りに異様なほど私物がなく、完全なる没個性な環境だった。事前に片付けるように通達されていた。
  • 建物の構造やレイアウトが、コラボレーションや意見交換を妨げる雰囲気に満ちていた。創造性を妨げていた階層制度、監視グループ、内部闘争などを取り除く必要があった。
  • それらマネジメント体制や制作プロセスを「ピクサー流」に改善した結果、「ボルト」以降の高評価、興行成績につながり、アニメーションスタジオの経営再建を果たした。

こんな流れになりますが、初期ディズニーでもスタジオの規模拡大と共に組織が官僚化してクリエイティブが阻害され、作品のクオリティーが低下する問題が発生していました。

その原因は、他でもない創業者のウォルト・ディズニー本人にありました。クリエイター、プロデューサーとして卓越した能力を発揮したウォルトでしたが、スタジオの経営者として過去に同じ過ちを犯していたのです。現場のマネジメント以外の負担が大きく、時代の背景も大きかったと思いますが、組織の拡大と共に発生する普遍的な課題なのかと暗澹とした気分になりました。

創業者としては豪腕を振るわなければ成功はなかったと思います。その一方で、多くの従業員を管理してクリエイティブを引き出すには、全く異なる素養が求められます。別人格を兼ね備えることは難しく、ウォルトの場合は兄のロイがその役割を担いましたが、やはり対立することが多く円滑な二人三脚ではなかったようです。

そう考えると、アップル創業期に暴君と批判されたスティーブ・ジョブズが、ピクサーではクリエイティブチームと適切な距離を保ち、ボトムアップ型のマネジメントを身につけてディズニーを再建する側にまわったことは特筆すべきことだと感じます。