Réalisation ॐ

永遠の相のもとに 〜 Sub specie aeternitatis 〜

ルールの遵守と柔軟な判断

 【参院:川口順子氏の解任可決 常任委員長では初】参院は9日午前の本会議で、国会の許可がないまま中国出張を延長し委員会が中止となったとして野党7党が提出した自民党の川口順子(よりこ)環境委員長の解任決議案を、野党の賛成多数で可決した。常任委員長が決議によって解任されるのは衆参両院で初めて。(毎日新聞 2013年05月09日)

 政治的にはあまりポリシーないですが、今回の川口順子環境委員長の解任決議については、「ルール遵守か?」「臨機応変な英断か?」と意見が分かれており、サンデル先生の白熱教室的な良いケーススタディーであったと思います。
 柔軟さが求められる現場(特に海外)では、常に発生する身近な問題なので、自分も興味深く賛否両論に耳を傾けながら推移を見守っていました。

 先に個人的な意見を述べさせて頂くと、

  1. 事前に滞在延長の許可を得ようとして、それが却下されている以上、ルールを破って確信犯的に滞在延長したのは事実。処罰は免れない。
  2. その認識の上でご本人が帰国せずに中国要人との会談に臨んだのであれば、リスクを負った決断に拍手を送りたい。
  3. おそらくご本人は熟慮されて判断した結果でしょうから、委員長解任という結果にも後悔はされていないでしょう。

 ・・・ということなんですが。それぞれ解説すると、

  • 決められたルールは守らなければならない。

 組織や集団をまとめるには、明文化したルールの存在が不可欠です。理念や共通の目標で集まった均質なチームは例外として、異なる思想や多様な国籍・文化を持ったメンバーでチームを形成する場合は、明文化したルールが必須です。
 異なる方針の政党で委員会を運営する以上、ルールは絶対的な存在であり、各自の価値観に基づいた臨機応変な行動を認めたら収集がつかなくなります。
 なので中国滞在の延長申請が却下された以上は、中国要人との会談よりも帰国を優先しなければならなかった、これが原則であるはずです。

  • 確信犯的に行動しなければならない局面もある。

 恐らく「ルール遵守」は百も承知の上で、帰国の延期を決断と思います。外相経験者として要人との会談をセッティングされて「いつ会うか?今でしょ?」と決断できず、国内の委員会を優先して帰国してしまうような政治家に何の期待ができるでしょうか。
 そういう意味で、保身を捨てて滞在延長した判断は覚悟が感じらるものであり、その決断は尊重されるべきだと思います。

 運用ルールはあくまでも通常時の最適を目的に決められたものであって、有事に更に上位概念であるミッションに基づいた臨機応変な行動を取れるか否か・・・これは震災時に多くのエピソード(ディズニーランドでの対応など)から問われたことでもありました。
 「たられば」で考えるならば、事前に申請した中国滞在期間の延長が許可されていれば何ら問題にはならなかったわけです。自民党である岩城参議院運営委員長がその許可を「出さなかった」のか、野党多数の情勢の中で「出せなかった」のかは分かりませんが、いずれにせよ「国内の委員会と外交のどちらを取るか」優先度や責任の認識に違いがある以上は賛否両論が出るのは確実で、だからこそハラ(肚)を括って決断された結果なのだと思います。

 これをスタンドプレーと見る人もいるでしょうが、まさしく「職を賭して」信念を貫いた行動をどう評価するか、我々に問われている気がしました。

 ・・・そしてまとめ。
 日常の業務でも似たような状況にはよく遭遇しますし、信念を持って行動した結果が非難を受けることも多々あります。特に、日本の上層部からの承認を得ながら、海外の現場をまとめていくような立場にあると、日々このような判断に迫られるものです。ルールだからと臨機応変な対応をせず、現地プロジェクトを頓挫させてしまうケースも多く、海外プロジェクトの成否は『現地の長がどれだけハラを括れるか』に掛かっている、といった話を聞く度に深く共感します。
 今回の男前な立ち振る舞いで、川口順子氏は大いに株を上げたと感じます。