Réalisation ॐ

永遠の相のもとに 〜 Sub specie aeternitatis 〜

PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話

弁護士としてM&Aなどを取りまとめるうちに経営に参画するようになり、シリコンバレーで上場企業の取締役を務めていたローレンス・レビー。かのスティーブ・ジョブズからのオファーを受けて、論理的に考えればリスクしかないのに「直観を信じて」PIXARに転職します。しかし、内情を知れば知るほど後悔・・・そこからトイストーリー公開、上場、ディズニーからの買収と、紆余曲折を経て成功と安定を得るまでの実話です。これまでにもPIXARのサクセスストーリーはいくつも書籍化されてきましたが、当事者による回想録なので生々しい臨場感に引き込まれました。

エド・キャットムル著「ピクサー流 創造するちから(Crieitivity,inc.)」も素晴らしい内容でしたが、それが更に補間される形で理解が深まりました。こちらは更にビジネス寄りのエピソードで、特にディズニーとの再交渉と上場準備を平行して進めるあたりは全く先が読めず、ケーススタディーとしてもエンタテインメントとしても綱渡りの展開にハラハラする気分を味わいました。 

トイストーリー制作の終盤、上場前の最も資金繰りが苦しかった時期に、ディズニーとの再交渉でレビーは「興行の収益を折半する」好条件を引き出すことに成功します。その代わり、作品からPIXARの名前が外されてディズニー制作としてクレジットされる条件でしたが、PIXAR幹部はそれを満場一致で拒んで交渉を打ち切ります。レビー自身もその選択に賛同だったものの、長期に渡った交渉の苦労は全て水の泡となりました。PIXARとしての長期的なビジョンと共に、制作関係者のプライドや自負といったものを大切にする姿勢に深い溜息をつきました。

そしてレビーは、スティーブ・ジョブズが亡くなる直前にPIXARを卒業して哲学や東洋思想を研究する道に入ります。アップルCEOとしてもリベンジを果たし、禅の教えに深く傾倒していたとされるスティーブは「我々の中からそういうことをするやつが出てきて嬉しい」と快く送り出したそうです。後にチベット仏教の導師に弟子入りします。

もちろん本に書けなかったドロドロした裏話もあるでしょうが、それでも個人個人の仕事に取り組む姿勢、スティーブ・ジョブズの癇癪やスタンドプレーを含めても、PIXAR幹部(後にディズニー幹部も含め)のチームとして課題に立ち向かう真摯な態度に、映画を見終えたような大きな感動が残りました。同じ時代を生きて、遠巻きにそれを目撃してきた者としては「それに比べて日本の(以下自粛)」と妙な読後感を抱いてしまいました。