Réalisation ॐ

永遠の相のもとに 〜 Sub specie aeternitatis 〜

中国からの撤退?岡田武史監督の退任

 岡田監督お疲れさまでした。中国の杭州緑城を離れるそうです。
 唐突な印象を受けて(W杯を目前にした)ビジネス的な判断の他にも、何か理由があるのではないかと気になりました。
 退任理由の「家庭の事情」が建前だとして、真相を探ろうとすると「中国ならではの難しさ」みたいなところに「まず」辿り着くわけです。
 そこで終わっちゃうんだろうなあ。。と、ちょっと残念に感じたので考察を。

岡田武史の「中国細見」 悔い無し、中国サッカー「杭州緑城」の2年間

手応えを感じているのに、なぜ、辞めるのか。家庭の事情というのが一番の理由だが、指導者としてやるべきことをすべてやってしまった、という感覚がある。超えられない限界が見えてきたのも事実だ。

規律を持つチームに作り上げれば、勝てるという自信を持った。そして、それは私の得意とするところだった。

 岡田監督には、勝てるチームづくりの見通しと自信があったようです。それを実現をしないまま退団を決断するに至った理由、「超えられない限界」とは果たして何だったのか?

私が言うようにサッカーに取り組んで、少しばかり、うまくなっても、オープンな移籍マーケットがない中国では他のチームから声がかかる訳でもない。それよりも、力のある人と一緒に酒の席に出て交流を深めておいた方が、生活は安定する。中国人社会の中では人脈を大切にしていれば、ミスをしたって、選手生命が終わることなんてないだろう。

 表面的には、実力主義でない中国サッカー界の体質に対して感じた限界・・・このように受け止めることができます。
 もちろん、それは大きな制約だったでしょうが、単純にそれだけで撤退するくらいならば、あえて中国での監督を引き受けることはなかったでしょう。
「中国のサッカー界はまだ本当にダメダメなのか?」・・・そこに着目すると、岡田監督の理想とのギャップを察することができます。少し前に、アジアチャンピオンになった広州恒大(アジアで一番強い実業団チームはナント中国リーグから出ているんですね)を評した手記があります。

岡田武史の「中国細見」 アジア最強チームに宿る規律とプロ意識

中国のチームづくりでカギとなるのは人脈だ。以前も書いたが、オープンな移籍マーケットがないから、フロントも選手も人脈を頼るしかない。だが、プロの強化責任者がいたら、そんなことはできないはず。人脈でチームをつくって勝てなかったら、その責任を負わされるのだから。

中国代表選手がごろごろしているのだから、選手間の競争はそれだけ激烈。親会社自身、実績を残せば、給料も高いが、結果が出なければ、解雇、という厳しいシステムという。そういうシステムがチーム内でも徹底されている気がする。選手からすれば、手を抜くなんてことは考えられない。

 ・・・つまり、中国リーグのトップは既に実力主義によるチーム編成を取り入れて、結果も出しているのです。そういった世界標準の当たり前な手法を取り入れて真のチーム改革を実践できれば、周囲のチームに圧倒的な差をつける自信が岡田監督にはあったのだと思います。
 しかし杭州緑城では、編成の権限は監督には与えられず「プロの強化責任者」もいない・・・サッカーの現場を知らない上層部に媚を売った方が選手にとっては保身につながる・・・そんな余地が大きければ大きいほど、芝の上での指導の限界がほどなく見えてきたのでしょう。
 恐らく杭州緑城のオーナーとの間で、ここにメスを入れる相談もされたと思いますが、抜本的な制度改革が期待できない中で、『指導者としてやるべきことをすべてやってしまった』という心境に至ったのではないでしょうか。ケンカ別れではないようですが、岡田監督らしい決断だと思います。(家族と離れて中国に単身赴任して取り組むテーマでもない → 家庭の事情、と理解しました)

※話は飛躍しますが「上層部が現場に、責任と権限をどこまで委譲するか」という問題はマネジメントの普遍的な課題で、特に双方の距離が遠くなりがちな海外ビジネスにおいては「もはやそれに尽きる」と思っています。どこの国、どこの地域であっても単純ではなく、マーケット開拓やチームの管理は一筋縄にいきません。海外に出て行って「商習慣や文化が違う」ことを証明する必要はなく、現地でトライ&エラーを繰り返して結果を出すしかないのですが、現場に判断力と権限がなければ結果を出すまで遠回りします。この点をスルーして「文化の違い」をいくら論じても無意味ですが、表層的な事象に目を奪われてしまうのが残念な実態です。

 今回の件も「中国サッカー界の体質」そのものが問題ではなく、その中で改革に成功したチームが出てきているのに、自社チームが改革に踏み出さない(或いはスピード感が鈍い)ことが問題で、監督は契約を1年残して杭州緑城に見切りをつけたのだと感じています。
 岡田監督の退任について考察してみたのですが、ビジネス全般に通じるとても普遍的なことに気づかされました。今後のご活躍を期待しながら、引き続き動向を見守らせて頂こうと思います。

文明の衝突、問われるのは智恵と勇気 ・・・この時期に深い感銘を覚えたので、最後まで頑張ってほしかったのが本音。非常に残念ではあります)

2014.5.12.追記
 本日のワールドカップ日本代表メンバー発表を前に、昨日深夜のスポーツ番組に岡田氏が出演していました。代表監督の経験者として、実に勿体振りながら持論を話す岡田氏を見ながら「あっ、これだったか!?」と笑えてきました。ワールドカップイヤーという稼ぎ時に日本にいたい、これはビジネス的には正しい判断ですね。。