もし何かの間違いで戦争が起きたとしたら、ぼくは戦場に行く前に牢獄で死ぬことになるだろう・・・そんなことは随分と若い頃から考えていた。これには、下村湖人の影響が大きかったと思う。
次郎物語の第五部は、それまでの内省的な物語から、急速に周囲の大きな時流に巻き込まれていく主人公が描かれているわけだが、少年期に読んだ時にはそんな展開に少し戸惑いがあった。
そして、続きを読みたかったが、作者の死去により次郎物語は第五部で終わっている。・・・これはもう、どうしようもなかった。
下村湖人に対する自分の想いはともかく、世の中の雰囲気が戦争に傾いていく中、それに抵抗する朝倉先生と次郎の姿を、今の若い人にも知ってもらいたいと願う。
第五部に至るまでの前段がちょっと長いけれど、今は青空文庫で全て読めるのだから。
どちらかというと人格者、優等生であるはずの登場人物が、時代の流れの中で反逆者として追われていく展開の続きを、下村湖人は書き遺していない。
ぼくは徳を積んで人格を磨くような普遍的な生き方と、相反する革新性やロックンロールな価値観を統合できないまま、自己矛盾を抱えて長く過ごしてきた。
今になってみれば、そんな回り道も無駄ではなかったと思えるが、もし下村湖人が物語の続きを遺していたならば、少し違う人生を送っていたのかもしれない。
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