早川さんのライブに通うようになり、いつしかパートナーとして佐久間さんの名前をよく見掛けるようになった。いつ頃からだったろう、能楽堂で演ったあたりか。
メジャーなプロデューサー佐久間正英氏と、目の前で控えめにギターを弾いている佐久間さんのイメージにはギャップがあった。
脇役に徹するというのか、全く前に出てこない。ギターソロでも音色は引っ掻かれるように届くのに、佐久間さん本人の存在感は消しているかのようだった。
早川さんの日記などから察するには、佐久間さんとのふだんのやり取りも割と淡白らしく、お二人の関係はちょっと不思議に思えた。
常に早川さんの影のように音を出していた印象しかなかったが、昨夜は佐久間さんがセンターで注目を浴びる演出だったため、少し新鮮に感じられた。
そのせいだろうか、いつも以上に活発に見えて、ステージへの出入りで息が乱れるとは言っていたものの、知らなければ病気とは分からなかっただろう。増して、あのような見事な演奏を見てしまうと、左手の麻痺や脳腫瘍の手術があったことなど全く信じられなかった。 (※詳しい経緯は早川さんの日記で)
その一方で、早川義夫がつくった歌には終わりを歌ったもの、死や死者の存在が身近に感じられるものが多いことを、改めて思い知らされることになった。
歌の世界に、生きることの尊さ、生きようとする者への愛が溢れているが故に、演奏する佐久間さんの状況と重なり合うフレーズがあまりに多くて、何度となく残酷に思える場面が訪れた。ご本人からは悲壮感が全く感じられず、それが尚更、観ている側の胸を締め付けた。
早川さんのライブでは人知れず涙を流している人がいることを前から知っているが、この日は方々からすすり泣く声が聞こえた。
優しくて、残酷で、美しい時間がステージの上に流れていた。佐久間さんは、本当に強い人なのだろうと思った。
佐久間さんにとって早川さんは、音楽における初恋の相手だったらしく、早川さんの活動休止と復活、佐久間さんとのユニット結成までに流れた長い歳月を考えると、お二人の間には宿命とも言える何らかの必然があったように思えてくる。
バイオリンのHONZIが余命を知りながら早川さんのツアーに参加していたのは、まだそんなに昔ではなかったはずだ。
そして、佐久間さんが今、ギターを弾いている。
佐久間さんの日記、"goodbye world" を読んだ時、もうギターを演奏する姿を見ることはできないのだと悟った。当然、早川さんとの競演も。
ライブスケジュールにあったシカゴ大学の公演もキャンセルするものと思っていたが、予定通りに準備をしているという。
佐久間さんが早川さんと一緒に、ステージでギターを弾いている。
「生きてゆく姿がステキなんだ〜♪ 佐久間正英〜♪」
奇跡を見ているようだった。
シカゴ公演の成功をお祈りしています。