Réalisation ॐ

永遠の相のもとに 〜 Sub specie aeternitatis 〜

神の見えざる手を見る

 学者の名前や経済理論などの固有名詞がたくさん出てきたが、いちいち調べずスルーしながら読んだ。それでも言わんとすることを受け止めて、途中で挫折せずに読み通すことができたのは、圧倒的に内容が面白かったからである。
 
 生い立ちから学問を志すまでのエピソードを通じて岩井先生のパーソナリティーに愛着を抱くと、好奇心の赴くまま国内外で研究の道を進む人生が冒険のように楽しめる。もちろん、高い能力があって切り拓かれていく道だが、ご自身の感性に正直に、空気を読まなさすぎ?と思えるくらい処世術と無縁の生き方を選ぶ。主流派に異を唱えて苦労されたようだが、「見えざる手を見る」思考実験から不均衡動学に辿り着いた経済学者として異端(らしい)な観点は、逆に常識的で身近に感じられた。

 それはきっと「作家になるか科学者になるか迷った挙げ句、双方できそうな経済学を選んだ」そもそもの立ち位置、有り余る教養のなせる業かもしれない。文学や自然からヒントを得て素朴な疑問を抱く感性と共に、前提を疑って深く突き詰める姿勢、批判を厭わない骨太さは自覚のないまま既存のヒエラルキーとの軋轢を生む。多くの研究者が学会の権威からの評価を意識して、定説を覆すアプローチを試みる者が脅威となり邪道とされるのは、何も経済学に限った話ではないだろう。思わぬ分野でピュアなアウトサイダーに出逢ってしまった。

 たまたま目を通した書評から「読まねば」と強く感じた本だが、それまで岩井先生のことはよく存じなかった。難しい数式が出てきたら拒絶反応だっただろうから、これまで最も縁遠かった分野を浅くでも広く見通せたことには感謝しかない。しかし、まさか東大名誉教授の経済学の本を読むことになるとは・・・そして、経済に対する固定観念を覆したくて読んだのに、資本主義とは、会社とは・・・と岩井先生の視点を借りて見つめ直すうちに、信任や倫理といったテーマになってしまい、ふりだしに戻って途方に暮れている。。

 一方では、量子力学複雑系などへの言及があり、別軸で読んでいた本とシンクロして個人的に非常に興奮してしまった!!別々の井戸を掘っていたら、同じ水脈に辿り着いた感じだ。経済理論については半分も理解できていないが、理解度に応じて新たな発見ができる、そんな可能性を感じさせてくれる。手元に置いて、思いついた時に消化不良だった部分を読み返していきたい。

 あぁ、しかし。ようやく、経済について自分なりの観点を持てるようになってきた。

経済学の宇宙

経済学の宇宙